あの日のことばを探し続ける

あの日こころを動かした、拾ったきりの思い出、忘れられない誰かのことば、感じたままに、綴ります。

起業に必要なものは、勇気なんかじゃない

世の中にいま、起業ブームが到来している。

サラリーマンとして終身雇用される時代はもう終わった。
サラリーマンはカッコ悪い。
カイシャという枠組みに依存せず、自分の力を試してみたい。

SNSがここまで浸透し、上の人間が下の人間の思考回路を支配することはできなくなった。
多様な価値観・考え方・働き方が当然のようになった今、敷かれたレールの上を走り続けることはもう嫌だと思う人々が増えてきたらしい。

敷かれたレールの上を走り続けるのは嫌だという、みんなと同じワードを使う異端児たち。

何が人々を起業させたがるのか。ちょっと前まで、

  • 三菱商事
  • 年収1,000万円
  • 港区のタワーマンション
  • 投資もやってます
  • スタバでMac
  • 渋谷のおしゃれなカフェで朝活

あたりがかっこいいという風潮ではなかったのか。

人の価値観なんて、すぐに変わる。感性なんて、すぐに流される。
追いきれない。もっと変わりゆくものそのままに、変わらないものを大事にしたほうが良い。


さて、世の中にいま、起業ブームが到来している。
巷では、「考える前に行動しろ」だの「失敗を恐れるな」だの、僕らの起業を高校野球のごとく勢いだけで乗り切らせようとサポートしてくれるコンサルタントも登場。
とりあえず動かないことには始まらないらしい。怖がっているだけじゃ何も変わらないらしい。ファーストペンギンにならなければいけないらしい。

他人にリスクを取らせたところで、それがどうなろうと自分の人生には何の損害もない。
人の人生をなんだと思っているのか。

ともあれ、本人が本気でやりたいと思っていればそれで良い。
短い人生、何があろうと自分の信念に従って精一杯楽しむのが一番だ。
その選択肢として起業を選ぶのも、その人の自由なんだから。

かくいう僕も、人々から相談を受けたことがある。
「起業に必要なものってなんですか?」「起業のコツを教えてください」

こっちが聞きたいくらいだ。
起業に必要なものって、なんだろうか。
革新的で斬新なアイディアと、それをカタチにする具現化力、そして行動に落とし込む実行力。
これだけあれば、大丈夫な気もする。
なんて答えると、「アイディアをどう生み出せばいいのか困ってます」と返ってくるのがたいていのオチなのだが、だったら起業するな。

きっと、アイディア以外に必要なものだってたくさんある。
アイディアだけであれば、人間の数x5倍くらいのアイディアが日々生み出されているからだ。日本だけで毎日5億社が設立されていることになる。

そうでないということは、やっぱり起業は難しい。
必要なものって、なんだろうか。


ある人は「お金」だと答えた。
お金がなければ、サービスも何も作ることができないし、人を集めることもできない。
ましてや、サラリーマンを辞めて独立してしまえば、次はいつ収入が入ってくるかもわからない。生活費を担保しておくことは必須だ。

お金の余裕は、心の余裕。ちょっとくらい失敗して損失を出したって、お金があればそれをリカバーするだけの投資ができる。
資金繰りに追いかけ回されずに、冷静な判断を保つことが出来る。

「お金は信用を可視化したものだ。だからお金よりも信用で生きていけ」なんて意見もある。
確かにwebサイトくらいググれば作れるし、お金はクラウドファンディングで集めることもできるし、信用があれば友人の部屋に居候させてもらえるかもしれない。

と、言うのは簡単だが、居候するのはなかなか気まずい。
そう考えると、やはりお金は必要かもしれない。


別のある人は「勇気」だと答えた。
起業とは、やはり怖いものである。
収入が得られないかもしれない不安、会社に行けばそこにあったはずのコミュニティから外れることへの孤独感、そして失敗したら多額の借金を背負ってしまい自己破産に追いやられてしまうという恐怖感。

それを乗り越えるのは、たった一つの勇気だ。
「俺は絶対に成功してやる。成功のためなら、今の安定を捨てて荒波に揉まれる覚悟がある」と、夜な夜な気合いを入れて独立に立ち向かうだけの野心が必要だ。

「勇気なんて必要ない。本当にやりたいことが見つかれば、勝手に身体が動くはず」なんて意見もある。
確かに本当にやりたいことはずっとやっていられるし、洗脳されたごとく時間を忘れ没頭することが出来る。

それはわかるのだが、センター試験の国語が60点だった僕にとって筆者のイイタイコトを当てるのが困難だったのと同じように、自分のヤリタイコトなんてのもいい当てるのは難しい。
ちょっとの勇気は、やはり必要なのかもしれない。


通りすがりのあの人は「起業家精神」だと答えた。
起業家精神とは、勢いと冷徹さ、冷静さと大胆さ、社会的大義と個人的野心、大きな倫理観と手段を選ばない成功への執着心、、、
などと、どう見ても相反する者たちを全て併せ持った超人的かつ多重人格的存在が持つ精神力のことを指す。

全てを兼ね備えた人間こそが、起業家であると。そりゃまあ、そうでしょ。全部論は必要悪。
どこかの評論家が唱えた起業家精神は、必要かもしれない。


でも、なんだか違和感を感じずにはいられない。
むしろ、全部違うんじゃないかとすら、思えてくる。

いつしか僕ら日本人は、精神論で全てを片付けることに慣れてしまった。
仕事が終わらないなら、気合いで終わらせる。
競合他社に負けているならば、気合いで案件を取ってくる。
給料が増えないならば、気合いで家計出費を抑える。

サラリーマン社会においては、現在ようやく「気合い万能論」に対してのアンチテーゼが台頭し、仕事の効率化を進めたり、経営戦略を練り直したり、出費を管理するITサービスが出てきたりするなど、効果的な手段で問題解決しようとする動きが見えてきた。

しかし、時代の先端を行くはずの起業の世界で、どうしてこれが拭えない。
勢いで起業なんてできるものか。愛と勇気で安定した現状を捨てることなんて、できるものか。だったらなぜ、離婚は減らないんだ。


アイディアがないのなら、今日から毎日必死に5個、ビジネスアイディアを書き出してみる。
なんでもいいから、書く。定時で帰るために午後5時になると勝手に電気が非常病棟のレッドランプに変わるIoT照明の開発でもなんでもいい。
ある日突然頭が冴えるのを夢見ていないで、脳の思考回路を鍛えなければいけない。

失敗が怖いのなら、なるべく失敗の可能性を下げるための策を講じるべきだ。
採算性と資金プランを入念に作り上げ、ビジネスプランを徹底的に批判的に見つめ直す。
想定されるリスクを全て洗い出し、どのリスクを取ってどれを捨てるのかを意思決定し、迎え打てるだけの策を練り上げ、いつでも手を打てるように準備しておく。

収入がゼロになるのが怖いなら、今のうちに副業なりで稼げる手段を持っておくべきだ。
クラウドワークスからビザスクからTimeticketまで、自分のスキルや時間を売れるプラットフォームは完璧に整っている。

コミュニティから外れるのが怖いなら、TinderでもMeetupでもやってつながりを増やしておくべきだ。
あの悪名高いFacebookすら、イベント検索すれば、人間みな暇なんじゃないかと思うくらいに無数のイベントが各地で開催されている。


今のうちにやれることは、いくらでもある。
そう。起業に必要なのは、勇気なんかじゃない。

それは、感情を廃し、現実と理想とのギャップを認識し、それを埋めるために今できることを冷徹かつ緻密な論理で積み重ね、具体的な行動まで落とし込むだけの、問題解決力。

きっと、そう思う。