あの日のことばを探し続ける

あの日こころを動かした、拾ったきりの思い出、忘れられない誰かのことば、感じたままに、綴ります。

一人一人が経営者として行動する、は大嘘

思えば、もう転職して2年が過ぎようとしている。

事実上の定時が22時。そこから残業してタクシー帰り。
上司にスケジュールを完全管理され、風邪をひいても休むことは許されず、指示は全て上層部からの丸投げ、部下の手柄は上司のもの、上司のミスは部下のもの。

飲み会を断ると成績評価に影響し、根拠なく対前年10%上乗せされた予算が未達になれば、その理由説明に一週間くらい付き合わされるというとてつもない無駄事業会社ともおさらばした。頭おかしい。

 

 

いわゆる、商社という会社であった。
就活生人気企業ランキング不動の一位。勤めていたらかっこいい企業ランキング不動の一位。彼氏にしたい企業ランキング不動の一位。年収ランキング不動の一位。
なにを取っても常にきらきら輝き続ける商社ブランド。

就活していた頃の僕にとっては、「何をやっているのかもよくわからないし、何のために存在しているのかもよくわからない企業ランキング不動の一位」であったのだが、ブランド力だけはすごかったことを記憶している。

ブランディングとは、ガラクタをいかに高く見せるかという手法にすぎない。
日本のなんとか商事おそるべし。

 

さて、そんなブラック商事に努めていた頃、僕の所属する事業部長がこんなことを言っていた。
「君たちは、現場で活躍する商社マンだ。常に利益を追究し、常にお客様に価値を提供しなければならない。そのためには、現場意識だけじゃだめだ。一人ひとりが経営者としての意識を持って行動してほしい」

なんか後半のあたりで論理が飛躍してないか。

まぁそんなことはさておき、
商社マン。大企業の経営者。なんと響きの良い言葉だろう。
年収ウン千万円。定時帰り。適当に会議に参加し、適当に部下の顧客回りに同行し、名刺を紋所のごとく見せつけて世間話をしてお茶を飲んで帰っていくだけの簡単なお仕事。

ちなみに男女差別が最近はうるさいので、わが社でも商社マンならず”商社パーソン”と呼ぶように指令が出ていたのだが、そんな些細な呼び方だけ変えて職場改革したつもりでいるんだから、いつまでたっても男女差別が社会問題であり続けるのだ。
手につけやすい個所から変えていき、面倒な本質は後回しという、人間の怠け癖の典型例。

 

おそらく「大企業の経営者」とは、誰もが出来る簡単なお仕事の一つだろう。
社長は責任が重すぎるので、できれば副社長やなんとか取締役あたりだと有難い。

平社員の僕から見てみれば、経営者なんて会社のお金で飲みに行って、会社のお金でタクシーを乗り回し、会社の資産で自分の地位を確保している超人のようなものである。
経営者として行動するということは、同じことをしても良いのだろうか。

試しに、「僕も経営者なので、事業部長みたいにタクシー乗り回していいですか」と聞いてみるといいかもしれない。
恐らくその場で殴られるか、暴言を吐かれるか、明日から机が無くなっているかのどれかである。その通りだ。経営者たる者、コストコトロールは徹底しなければいけない。ビジネスクラスなんて乗っている場合じゃない。

 

一人ひとりが経営者として行動すると、会社はいったいどうなるのだろう。
経営者とは、いったいどんな仕事をすべきなのだろう。

会社を経営するということは、お客さんにサービスを提供してその対価を貰い、利益を稼いで、その利益でサービスを改善させるなりコストカットに投資するなり従業員に還元するなど使い分けをして、半永続的に会社を存続させていくための戦略を実行していくということだ。

要するに、
1. サービスを作る仕組み
2. 売る仕組み
3. 利益を得る仕組み

の3つを構築すれば完成である。MBAを学ぶまでもなく、これが全てだ。

 

サービスを作る仕組みとは、いかに製造コストを削り、人件費を削りながらも設備投資によって良質なサービス・製品を作るかということだ。
コストとサービスはシーソーゲームなので、落としどころが難しい。
たまに「人間という資産は気合いでなんとかなるから、人件費を削ってもサービスの質は落ちないだろう」と宣う経営者がいるが、即そいつの給料をゼロにしてくれて問題ない。

 

売る仕組みとは、いかに手をかけず、勝手に売れる所まで持っていけるかということだ。
消費者の頭に叩き込まれるまでにブランディングを施せると強い。
冷蔵庫といえば、、パナソニックNEC、日立、、、ではだめだ。

ブラック企業といえば?」
「電●!」
となるまで認知度を勝ち取らなければならない。

 

利益を得る仕組みとは、儲けどころはどこかという事である。
「社長、どの商品に注力しますか?」
「全部だ」
と宣う社長は即クビにしてくれて問題ない。

タダで客をおびき寄せて広告で儲けまくる某Faceb●●kのように、利益を得るポイントを絞らなければならない。

 

では、これら3つのことを、何百人もいる全従業員が一斉に考えだしたらどうなるだろう。

IT「うちの会社は営業の効率が悪い。営業の効率化ツールを取り入れて、営業マンをもっと動かそう」
営業「いや、動くもなにもうちの製品は魅力に欠ける。他社に価格でも品質でも勝てず、もはや新製品の登場を待たずして売り上げを伸ばすことはできない。開発に注力すべきだ」
開発「どんな商品が売れるのかがわからないからマーケが鍵になると思う」
マーケ「いや、分析ツールがしょぼすぎて仕事にならない。システム変えよう。」
IT・営業・開発・マーケ「社長、どれに注力しますか?」
社長「全部やれ」
経理「あと、みんな経営者だから残業代無いからね」
IT・営業・開発・マーケ「◯ね」

 

超無意味。

従業員は、決して経営者として行動してはいけない。
人間はみんな、本能的に責任を逃れようとする。
いざという時に自分に被害が降りかかるのを防ごうとする。
だから言い合いになり、議論の収拾がつかなくなる。

組織の意思決定には、最後に責任を取ることを強制された最高責任者が必要なのだ。
そしてその社長の多くは、「責任は俺が取らなきゃいけないんだから、つべこべ言わずに命令に従え」と思っている。
だって従業員に勝手に動かれて変な損害が出たら、自分が辞めなきゃいけないから。

「新人も臆する事なく、是非会社に対して意見を言ってほしい」という社長のことばに騙されてはいけない。
器の小さい社長に刃向かったら最後、明日からあなたの机はない。

 

社会人6年目 (か、7年目) の凡人として、経営者が良く言う綺麗ごとと、その解釈方法との対比表を並べてみた。
新入社員は、ぜひこれからの日々のサラリーマン生活に活用してほしい。

 

×「社会人としての自覚を持ってほしい」
〇「社会人なんだから休まず夜まで働け」

×「自分で考えて行動できるように成長してほしい」
〇「余計な客先クレームを俺に報告するな。自分でなんとかしろ」

×「給料が発生していることを忘れずに、気を引き締めて行動してほしい」
〇「いくら儲けてもお前の給料は不変だが、但し損失を出した場合には減額するから当事者意識を持って働け」

×「常にフレッシュで若いみんなからの意見を期待している」
〇「だからといって別に意見を聞くとは言っていない」

×「君たちが会社の将来を背負っている」
〇「俺の地位を落すような行動をしたら、どうなるかわかってるよな?」

×「みんなで一丸となって会社を変えていかなければ、未来はない」
〇「だから黙って働け」

 

検討を祈る。